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その晩、アイリスは一人で夕食を口に運びながら、盛大に溜め息を吐いた。
彼は何しろ皇女殿下の騎士なのだ。
仕方の無い事だと納得してはいたが、新妻を独りきりにするような職種の男と結婚したのだと実感せずにはいられない。
一列に二十名は着席できるであろう長い食卓。
その上座にぽつりと座り、美味しい筈の料理をただ口に運ぶ。
そんな妻の事を、彼は一瞬でも考えただろうか――。
独りきりの食事も、実家では"日課"と言っても差し支えないほど慣れた事だというのに、何故こんなにも虚しくなるのか、アイリス自身にも判らなかった。
――それに、何やら嫌な胸騒ぎも感じるのだ。
加えて残念な事に、アイリスの虫の知らせは外れた事がなかった。
もはや夫の心配をしているが為に食事に集中できないのか、虚無感に囚われた心を料理では動かせないのか、それさえも判然としないのだった。
ただ解っているのは、ろくに味わいもせずとも、豪勢な食事は少女の体内に取り込まれていく事。
その事実のみを頭の隅に留めながら、少女はグラスを煽り、吐息を水で喉奥へ押し返した。
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