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時を同じくして──国内に点在する宮殿には、何処も通常の倍近くの兵士や騎士達が詰めていた。
皇女の専属騎士であるシエルも、主人の住まう離宮に詰める中の一人であった。
「……ねえ、少しは一人になる時間も欲しいのだけれど」
少々不機嫌そうに頬を膨らませる少女に、シエルは苦笑する。
「残念ながらそうも参りません。近頃は特に物騒ですし」
シエルとて、出来れば彼女を自由にしてやりたい。が、今日はそう出来ない事情があった。
まさか『宮殿の襲撃の予告がありました』とは言えないものの、彼女が一人になるような事があれば、それこそ一大事になりかねない。
宮殿に詰める者達は、ただでさえ神経質になっている事を皇族達に悟られぬように気を配り、余計に神経質になっているのだ。
少なくとも、未だ十五歳の皇女に事情を明かす事など出来ないと判断しての対応であった。
彼女の性格からして、『騎士(シエル)が護衛なのだから私は無事に決まっている』等と余裕を取り繕うだろうが、彼女の不安を最大限取り除く事も騎士の務め──と、少なくともシエルは考えている。
「ふぅーん……おかしなシエル。
そうだ。ねぇ、結婚したというのは本当?」
気分屋である彼女は然して気にしていないのか、唐突に話題を変える。
今度はシエルが動揺させられる番だ。
「ええ、まあ……。ご報告が遅れ申し訳ございません」
シエルがぎこちなく頷いたのは、気恥ずかしさから来るものだとでも思われただろうか──否、そうであれば良いとシエルは密かに願っていた。
「そう。おめでとう」
少女は意外にも冷淡なほど素っ気ない声で祝辞を述べる。
「ありがとうございます」
「お相手は、どんな方?」
彼女の質問にシエルは少しばかり悩んだが、出来るだけ皇女の機嫌を損ねないよう、当たり障りのない言葉を選ぶ努力をした。
「そうですね……彼女は、優しい女性です。
姫様とは歳も近いですし、気が合うかもしれませんね」
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