その乙女、懊悩

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  「へぇ……そうなんだ。会ってみたいなぁ……」  少女はシエルの袖を引っ張っている。  猫のように擦り寄り、上目遣いで甘える。彼女の得意技だ。  シエルは程度に捉えているが、そんな姫君を可愛いと言う男も、恋慕する男も少なくない事は知っていた。 「姫様の御為ならば、彼女に予定を調整させましょう」  シエルは一瞬は躊躇したようだったが、結局彼女の頼みならば断れまいと頷いた。 「絶対だからね?」  そして差し出されたイリスの小指に、シエルは自分の指を絡める。 「ええ、お約束致します」  それが少女のどんな想いに起因する物かなど、知る由もなく──否、考えようともせず。 「お願いだから、シエルは私に嘘をつかないでね」  しかし、姫君の方はシエルの些細な変化にも敏感だったらしい。  指を解くなり真剣な表情でそう言ったイリスに、シエルは心の中でたじろいだ。  ──嘘は言っていない……が、隠している事には心当たりがある。 「……ええ、勿論」  それでも彼女が望んでいるであろう答えを口に出すと、少女は頷いた。 「それなら良いの」 「答えて。  今日は、私達が狙われているから警備が厳重なんでしょう?」  彼女の為とはいえ、これ以上の誤魔化しは通用しない事を悟ったシエルは、頷く以外なかった。 「……姫様の、お察しの通りです」
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