その乙女、可憐

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  「嫌ならはっきり言ってね。これは提案であって、命令ではないから」  そうは言うが、美貌の公爵夫人に寂しげな表情で迫られれば、クラウドとて拒絶する類の言葉は飲み込む以外なかった。  ──胸が、微かに熱い。 「……若輩者ですが、そう仰られるのなら……」 「良かった、決まりね。  さあ、堅苦しい挨拶は要らないから早く来て?」 「え、あの……」  クラウドの袖口を掴むと、アイリスはドレスの裾を捲り、軽やかに走り出す。 「奥様!」  惚けたように固まっていたリカルドはやっと正気に戻ったらしいが、当のアイリスは呑気なもので、ひらひらと手を振り返した。 「大丈夫。貴方は安心して元の仕事に戻れば良いだけなんだから!」  そして、傍らの新しい従者には柔らかな笑みを。 「確信があるの。  貴方なら父親以上に立派な執事になれるよ、きっと」 「何を根拠に?」  呆け顔で尋ねる彼に、アイリスは更に目を細めて見せた。 「私の直感はね、外れた事がないの」    
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