その乙女、無垢

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  「このドレス、どう思う?」  胸元の開いた深紅のドレスを纏い、軽やかに一回転して見せるアイリスに、クラウド・クロスロードは苦笑した。 「よくお似合いですよ」 「本当? 少し派手かと思ったんだけど……」 「落ち着いていて良いお色かと」 「そう。貴方がそう言うのならこれにする」  少し恥ずかしそうに微笑む彼女は愛らしく、自然、クラウドの表情も緩む。  まるで人形のように澱み無い美しさを持ったアイリスは、底抜けに明るいという訳でもないが、出会って間も無い自分をも安心させる包容力を持ち合わせている女性であった。  ――これ程にあからさまな魅力を持った彼女を、『あの堅物』が見初めたのか。  だとすれば、それはひどく意外な事だった。  そもそも、以前は妻を持った彼など想像できなかった事もあるが――シエルという男は、何かを見る目にはかなり長けた男であると認識していたのだ。  無論、彼がアイリスを選んだ事が悪い訳ではない。  だがシエルは、上辺は目立たずとも、その人をよく知れば誰もが納得するような女性を選ぶのだろうと思っていたのだ。  誰もが褒めそやす薔薇の花ではなく、道端に咲く名も無き美しい花を選ぶのではないか――と。  ――彼に、一体どのような心境の変化があったというのだろう?  そんな疑問が、クラウドの頭をずっと擡(もた)げていた。
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