その乙女、無垢

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   "先程のお礼"と称し、アイリスの自室でお茶を振る舞われている時の事だ。 「どうして……初対面の男を、簡単に傍に置かれるのです?」  不意に、先程はぐらかすような答えを与えられた疑問が、再び口から飛び出す。  すると新たなドレスに着替え直したばかりのアイリスは、ティーカップを持ち上げかけた手を止め、僅かに首を傾げた。 「言ったでしょう。私の勘は外れないの」 「勘……。本当にたったそれだけで、お――私を?」  つい口にしそうになった普段の一人称を言い直すクラウドに、アイリスは目を細める。  ――猫のように猟奇的な琥珀色の瞳に、果たして自分はどう映っているのだろうか。 「申し訳ございません」  クラウドは少し恐ろしくなり、小さく謝罪の言葉を述べる。 「私は怒っていないから安心して。むしろ、興味が湧いたな」  この時、笑窪が出来る程に口角を上げる彼女を、クラウドは初めて見た。  少女を驚くほど幼く見せ、同時に違和感も感じさせる柔和な表情。  容姿やその高貴な身分から大人びた印象を受けるが、まだ彼女は『少女』と呼ばれてもおかしくない年齢なのだ。  しかし、彼女との間には『ギャップ』という一言で は補いきれない奇妙な隔たりがあるようにも思える。  締め付けられるような胸の痛みと高鳴り――青年はかつて経験した事の無い不可思議な感覚に、眩暈すら覚える。 「大丈夫? 顔が赤い……」  はっと気付けば、心配そうに表情を歪め、アイリスが顔を覗き込んでいた。  クラウドはゆるゆると首を横に振り、微かに笑って見せる。 「ご心配には及びません。  少し考え事をしていた物ですから……」    
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