その乙女、無垢

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   ──クラウドは父を嫌悪するつもりなど毛頭なかった。  寧ろ父には幼少から尊敬し、憧れてきた。  その職務に誇りを持ち、理解してきた。  だが、それを本人に伝えた事はない。  それ故に、父との関係に少なからず齟齬が生じ、関係が拗れたのだ。  それを理解したクラウドは、更に口を重くする事で、自身の『罪悪感』を本物の罪悪に変えんとしていた。 「そんな事、話さなければ解らないでしょう?」 「私は、家族を裏切ったようなものですから……」 「だから今更話せないって言うの?」 「それを選択する権利すら、私は持ち合わせていません」  アイリスが小さく息を吐いた事に気付き、青年はティーカップに落ちていた視線を上げる。と、琥珀色の美しい瞳と交差した。  ──怒るでも咎めるでもなく、静かに見据えられる、不思議な感覚であった。  その瞳ばかりに気を取られていると、不意に頬に何かが触れる。  それが彼女の指先であった事を理解すると、クラウドは目を瞬いた。  ──顔にかかった髪を払ってくれたのだろうか。  しかし、彼女のような身分の女性が一使用人の男に簡単に触れて良いものではないだろう──などと思いを巡らせかけた青年に、アイリスはぽつりと零した。 「……そう。貴方は、軍に誘われたの……」 「?! な、何故それを……?」  クラウドの瞳が揺れ、彼の動揺を如実に示す。  ──図星だ。 「言ったでしょう? 私の勘は外れないの」  彼女はただ優雅に微笑み、また一口カップを傾けた。    
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