その乙女、無垢

6/11
前へ
/333ページ
次へ
   ぞわり、と肌が粟立つ。  ――幾ら彼女が鋭かろうと、"勘"でそんな事まで解る物だろうか。 「ですが――」 「勘、当たったでしょ?」  まるで親の賛辞を期待する子供のように首を傾け、アイリスはクラウドの言葉を遮る。  そして、こう続けた。 「世界は、理不尽にできている物。  でも、貴方はほんの少しすれ違っただけなんだから、今からでも振り返れば、きっと間に合う」 「貴方は幸運ね。  これからは、幾らでもその機会があるんだから……ね、リカルド?」  アイリスがクラウドの顔から視線をずらし、背後に笑顔を向ける。と、些かわざとらしく咳払いする男性の姿が在った。 「……奥様、私は旦那様がご不在の間は、奥様のお世話を仰せ遣っております」 「解っています。  貴方は私を心配して一時間毎に様子を見に来ると踏んだから、クラウドに執事を任せるの」  不敵な笑みを浮かべるアイリスに、執事親子は苦笑する。  彼女なりの気遣いか、単なる遊興のつもりかは解らない。  しかし、ひび割れた関係を修復するに適当な距離感を作ってくれた彼女に、感謝すべきである事は明白なのだから。    
/333ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1925人が本棚に入れています
本棚に追加