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「……君は?」
「特務局より参りました、ケイト・エーカー少尉であります」
――見慣れぬ顔だった。
そもそもシエルの名を知る者はことごとく彼を恐れて避ける上、シエル自身もまた積極的に他人と交流する事もないのだ。
そんなシエルに近付く者といえば、普段はイリスの侍女や警備兵くらいのものである。
それも大抵は皇女本人に用があるのであって、シエルは『仕方なく』挨拶をされる程度の存在だというのに。
それ以前に、なぜ彼女がわざわざ皇女の騎士に手紙を届けに来たのかが解らなかった。
しかも特務局といえば、表向きは軍に属している機関であるが、軍上層部ですら彼らの実態を把握しきれていない事をシエルは知っている。
何しろ世間から見たシエルの人物像以上に謎めいた組織だ。
シエルとて少なからず警戒しているのは事実であった。
「何か、他にも用件が?」
「明日に行われます皇帝陛下主催のフェンシング大会の件で、ご報告がございます」
「ああ、では今聞こう」
「はっ。皇帝陛下より、当日はクロヴィス殿下と共に皇女イリス殿下もご観覧なさるようにとの旨の御手紙がございます」
「確かに承った。そのようにお伝えしよう」
彼女が銀盆に乗せて差し出した封筒を、シエルも恭しく受け取る。
「きゃあっ!」
その時だ。
聞き慣れたその小さな悲鳴に驚いて振り向くと──先程まで花を愛でていた少女が、視界から消え去っていた。
「姫様……?!」
シエルが駆け出すと、ケイトも唯事ではない事を察知したのだろう。
「イリス殿下!」
謎めいた機関の一員である女性は、彼と共に飛び出していた。
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