その乙女、無垢

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   ――何故、彼女から目を離してしまったのだろう。  ケイトに気を取られた事など言い訳にはならない。  寧ろ、もしも彼女に悪意があった場合を想定すれば、自分は取り返しのつかない失態を犯した事になる。  嫌な想像に頭を支配されながらも、シエルは自分の膝下ほどの丈の花々が咲き乱れるその場所を目指す。  既にその時――ほんの刹那思い出した妻の事などシエルの頭からは吹き飛んでいた。  それ程の動揺は顔にも表れていたのか、ケイトは物珍しそうにシエルの横顔を横目で見ながら走っている。 「姫様!」 「イリス殿下!」  先程まで彼女が存在した形跡のある場所へ辿り着き、二人で彼女の名を呼ぶも返事は無い。  背中を伝う嫌な汗を感じながら、シエルは周囲に目を凝らして歩き始めた。 「ブラッドレー卿、私はこちらを捜しま――」 「あっ?!」  作業効率を上げる為、ケイトがシエルの進行方向とは逆を捜索する事を提案せんとした、その時。  シエルが唐突に彼女の視界から消えた。 「ブラッドレー卿!」  慌ててその場所へ駆け寄ったケイトが見た光景は――皇女イリスを、彼女の騎士が押し倒しているという衝撃的な物であった。    
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