その乙女、無垢

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  「姫様! それは……」  シエルの制止をイリスはそれを無視し、封の蝋をやや乱暴に剥がした。 「……見て、シエル!」  と、その内容を読み始めた途端に、イリスは酷く興奮した様子で起き上がり、シエルの胸にその手紙を押し付ける。 「……姫様?」 「とにかく、早く読んでみて!」  急かされてそれに視線を落とすと、一番に目に飛び込んできたのは、妻が明日行われるフェンシング大会に出場する為、帝都へやって来るという報告であった。 「これは……」 「ねぇ、私もその大会を見たいわ。  彼女に早く会ってみたいの。だから良いでしょう?」 「殿下。皇帝陛下より、明日の大会は殿下も是非ご覧になられるようにと賜っております」  ケイトが思い出したように用件を伝えると、シエルは跋が悪そうに吐息を漏らす。  ――どうやら、相当な切れ者だと噂の彼でさえ気ままな皇女には振り回されているらしい。  不憫にも思えたが、それを表情――ましてや口に出すほど軽率ではないケイトは、神妙な面持ちを装った。 「エーカー少尉、だったかしら?」 「はい、殿下」 「下がって結構よ。  さっきの事は、なかった事にしてあげる」  一瞬、ケイトは大きく目を見開いたが、シエルと本当に上機嫌な様子のイリスの邪魔をしては、今度こそ首が飛ぶかもしれない。社会的にも、物理的にも。 「失礼致します」  幼いとは言えども一人の"女"の視線に宿る苛烈な炎に身震いし、ケイト・エーカーはそそくさとその場を立ち去る事にした。    
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