その乙女、婚約

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   艶のある美しい黒髪に、先程の薔薇と同じ深紅の瞳――。  加えて、透き通るように白い肌は、彼の浮世離れした美貌を際立たせていた。 「旦那様は止めてくれないかな。シエルで構わないよ」 「はい……シエル」  彼ーーシエルが満足気に微笑むのを見ただけでも、アイリスは軽い眩暈を覚える。  アイリスは今まで、男性という男性を尽(ことごと)く避けて生きてきたのだ。  最低限の知識としてはどう接するべきか把握しているものの、異性に対する免疫は皆無と言って良い。  それ故に彼女自身、『男性』という未知の存在に怯えている節さえある事は自覚していた。  それに加え、女である自分より美しい夫となると、別の意味合いで先が思いやられる――。  アイリスはシエルに気付かれぬように、小さく吐息を漏らすのだった。
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