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「リカルド、荷物を部屋に」
「畏まりました」
シエルが指示すると、リカルドは弾かれたように小走りで廊下の突き当たりへ消える。
「あの……シエル?」
「何?」
アイリスは、生まれて初めて深紅の瞳を持つ人間と対面していた。
彼の瞳はまさしく『血の色』と表現するのが相応しい妖しさを湛えているというのに、不思議と恐ろしくはない。
──先刻の薔薇の印象があまりに鮮烈だった為だろうか。
「先程、貴方のお母様が育てていた薔薇園を拝見しました。
初めて見る薔薇が沢山咲いていて……とても美しい場所ですね」
「母とは言っても、義理の母に当たる方だけれどね。
義母は本当に薔薇が好きな人だったから。
あの薔薇は、『シエルの血脈』なんて悪趣味な名前まで付いている」
あまりその薔薇に良い思い入れはないのだろう。シエルは自嘲気味に笑いながら言う。
「だから、貴方の瞳と同じ色──綺麗な深紅の薔薇なんですね」
しかしアイリスが感心したように頷くと、シエルは心底驚いた顔をした。
「……え?」
「貴方の瞳は、その──とても美しいので、お母様は同じ色の薔薇を大切にされていたのだろうかと思いまして……。
きっと、貴方のお父君と貴方を本当に愛されていたのでしょうね」
「………………」
「……その、もしもご気分を害されたようでしたら申し訳ありません」
何故か驚いた様子で固まっているシエルを見て、アイリスは慌てて付け足した。
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