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「……君は、とても不思議な女性(ひと)だね」
そうかと思えば、突然くすくすと笑い始めたシエルに、今度はアイリスが首を傾げる番だった。
「え?」
「考え方が柔軟なんだね。
僕は、あまり人と進んで関わらない所為かな……。すっかり頭が堅くなってしまっていけない」
「勿体ないです。世間では、貴方の事を、その……『吸血鬼(ヴァンパイア)』などと呼ぶ方もおりますし、もう少し社交の場にもお出になれば宜しいのに――」
自分の事でもないのにアイリスがどこかむくれたように言うので、シエルはまた楽しそうに笑った。
「騎士(ナイト)は結構忙しいんだよ。
仕事は主の警護だけではないし、たとえ休暇中でも鍛練は欠かせない。
……ああ、すっかり立ち話が長くなってしまったね」
小さく首を竦めて見せ、シエルはすいと手を差し出す。
「おいで。庭園を案内しながら話そう」
差し伸べられた手に、アイリスは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、怖ず怖ずと自らのそれを重ねると、導かれるままに先程の広大な庭園へ降り立った。
「風が気持ち良いですね……」
生温い風が二人の頬をそっと撫ぜれば、シエルは猫のように目を細める。
「雨の後だからね。しっとりしていて、僕の好きな空気だ」
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