第二章 秘められた想い

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俺があいつのあんな顔を見たのは初めてだった。 男所帯の新選組の中の紅一点。 皆に慕われ、大切にされ、それでいて負けん気の強い女。 男に全く怯む事はなく、皆が恐れる鬼の副長すらあいつには敵わない。 そんなあいつが、後悔に満ち溢れた、悲しげな、寂しげな表情。 それは密偵として島原へ行き、過激尊攘派志士達の悪策を身体で聞いて来た時の事。 あいつが帰って来たと聞いた時に感じた一抹の不安。 あの姿を見て直ぐに理解した。 あぁ、男に抱かれたな、と。 恋仲である沖田との関係は誰もが知っている。 相手があの沖田だから、気持ちを押し殺す奴も多いだろう。 まぁ、ひとり例外はいるが。 島原への密偵というのは幹部のみが知らされている事だった。 沖田も渋々ながら了承している。 万が一があるかもしれないと想定しつつ、あいつなら大丈夫だろうという想いが副長の中にも、沖田の中にもあったのかもしれない。 男である俺達が、男の貪欲さを知らなかったんだ。  
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