第二十三章 試衛館大学

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つぐみと結婚せず、近藤の妹と結婚したのには訳があった。 それもしょうもない訳。 ただ意地を張ってしまったがために彼女を愛人にすることになったのだ。 二年前――― 「土方くん、後で院長室に来てくれ。」 そう近藤に言われ、いったい何の話なのか検討もつかなかった。 病院の運営に関する相談か。そう思いながら院長室を叩く。 「失礼します。」 中へ入ると近藤と理事長の周斎が座っている。 二人の存在に疑問を感じ立ち尽くしていると、近藤が来客用のソファーへと土方を座らせた。 「土方くん、君の外科医としての才能は我が病院の誇りだ。」 いきなり褒められた。絶対に何か裏がある、そう感じた土方だが素直に礼を述べた。 「ありがとうございます。優秀な部下に恵まれているおかげです。」 表情の変わらない土方に、周斎は少し前へ体を乗り出した。 「君もそろそろ身を固めても良いんじゃないか?」 「…はぁ。」 「君に特別な人はいるのかね?それは君の外科医としての妻と呼べるに相応しい女性か?」 いったい何の話をしているのか。 眉をひそめていると、今度は近藤が口を開いた。 「妹を君の嫁にどうかと思ってね。君は院の経営にも一役買ってくれている。その君がどこぞの身元も分からない女性を嫁にするのはどうだろうか。」 この親子はこう言っているが、近藤の妹が内科部長の山南と良い仲だということは知っている。 『内科にはやれん』 大方そういう理由だろう。病院での花形はやはり外科なのだから。 それで自分に白羽の矢が立ったのだ。 「もちろん、君に相応しいポストも用意する。副院長。君の若さで副院長とはたいした出世だ。」 「しばらく考えさせてもらえますか?山南先生と僕は同期なもんで。」 「あぁ良いだろう。良い答えを期待している。」 土方はその日、自宅へ帰らずつぐみのマンションへと車を走らせた。  
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