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つぐみのマンションの駐車場に車を停める。
足取りは非常に重かった。
彼女に別の女との結婚を奨められたと言って、誰が喜ぶのだろう。
ただ彼女を不安にさせてしまうということは分かっている。
しかし、一言言って欲しいだけだった。
『結婚なんてしないで』
と。
「良いんじゃない?勝手にすれば?」
つぐみはそう言った。
そして土方から視線を外した。
土方は唖然となる。
泣き付かれるんじゃないか。
そう思い、つぐみに『結婚なんてしないで』とだけ言われれば断るつもりだった。
「お前はそれで良いのかよ。俺が別の女と結婚したって良いって事だよな?」
声に怒気が含まれ、少し震えていた。
「勝手にすればって言ってるでしょ?その年で副院長なんてすごいじゃない。それを後押しして欲しくて私に話したんでしょ?」
違う、そうじゃない。
しかし土方は素直になることが出来なかった。
「あぁそうだ。お前の了承が得られれば何の問題もねぇよ。」
ソファに腰を落ち着けていた土方に、つぐみは振り絞るように声をかける。
「……出てって。」
「あ?!」
「出てって!もう二度と来ないで!」
つぐみの大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
その涙を拭ってやりたい。
しかし…
「あぁ、出てってやるさ。」
扉がパタンと閉まった後、つぐみはその場に泣き崩れた。
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