第二十三章 試衛館大学

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「はぁ……」 深くため息を吐き、後頭部を掻いた。 「…ったく、沖田も役に立たねぇな。」 めんどくさそうにかけてあったワイシャツをバサリと羽織った。 口を開かないつぐみに、土方は背を向けながら言う。 「あいつがまた自殺未遂だってよ。沖田先生は交通事故で運ばれて来た患者のオペ中。」 聞いてもいないことを土方は喋る。 「奥さん、そんなに苦しんでるんだね…」 自殺未遂を何度となく繰り返しているのは土方の妻。 彼女が自殺未遂を繰り返すのに、土方との夫婦関係の問題が関わっていることは分かっている。 おそらく、自分の存在にも気付いているだろうとつぐみは思う。 だからこそ、土方との関係を切らなければならないことは、頭では理解しているのだ。 ただ心がそれについて行ってないだけで…。 着替えを終えた土方が玄関へ向かう。 その背中を見ながらつぐみは決意する。 土方を見送るのはこれで最後にしようと。 自分が引くことで一人の女性を救えるのであれば。 「…じゃあまた連絡する。」 ドアノブに手をかけながら土方は言う。 「……………」 何も言葉を出せず、土方の背中を見送った。  
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