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「おま……俺に恨みでもあるのか」
気怠い躯を起こし、眉間にシワを寄せ不機嫌を顔一杯に表しながら雅人は呟き、あぐらをかいたその膝に肘をついて華織を睨み上げた。
華織は踏ん反り返った態度もそのままに聞いていたが、その無神経な一言にやれやれと肩を落としてパンツ一丁のだらしない姿を見下ろした。
「心当たりがないとでも言いたいわけ」
「恨まれるようなこと、した覚えないぞ」
即答した雅人に、華織の口元が僅かに引き攣った。
口を開かなければ清楚な印象を与える顔立ちも、この時ばかりは般若の形相に変わり、針の様な鋭い眼差しで雅人の姿を捕える。
「三日前、あたしん家でもその格好でうろついたのを早くも忘れたわけ」
「あー……、別に素っ裸じゃなかったんだし、いい……」
「……わけないでしょ! 通報されるわ! タイミング悪く来た親戚に白い目で見られた揚げ句、最近の若者は常識がなってなくて困る、とか散々厭味聞かされた私の立場にもなってみなさいよ。あんたのその恰好のおかげで、精神的被害を被った私の時間をどうしてくれるっ、この恥さらし!」
口を挟む間もないほどまくし立てられて雅人は唖然としていたが、聞きながら、そういえば、ド派手な花柄のツーピースに鼻を突くきつい香水を漂わせた口煩そうなオバサンとすれ違ったかも……と、三日前の記憶を脳裏に過ぎらせた。
「過ぎた時間は戻らない。諦めろ」
物申さないと気が済まない華織の態度を見るに、よほどくどい言われ方をしたのだろうと思いながらも、雅人は疲れた表情を向けた。
厭味を聞かされようが精神的に被害を被ろうが雅人にとって、所詮、他人事だった。
「諦めろー!? 諦めがつかないからこうして乗り込んできてやったんじゃないのよっ!」
言葉にしてもまだ有り余る怒りを足音にも表して、華織は段ボールの上に無造作に置かれたうちわを片手に雅人の目の前に仁王立ちし見下ろす。
「なに、扇いでくれんの?」
素直に謝るということを知らず、暢気なことを言いながら両手を広げ待ち構える姿を見つめて、華織はその場に崩れた。
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