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もはや溜め息すら出てこない。こんなにも怒りを露にしているのに、まるで捕まえられない風のようにするりと交わされてしまい、華織の心の中に行き場のない気持ちが渦巻く。
似たようなことは過去に何度もあって、そのたびに華織はやり切れない想いを内に燻らせた。
「どうして、いつもいつも……、は、反省しろーっ!!」
「――っ!! かお…っ前……」
振り下ろされたうちわは分け目に直撃し、雅人はじわじわと広がる痛みに顔を歪めながら華織の更なる攻撃を交わす。
たいていのことは流せるが、いつまでもされるがままでいるのは面白くないと空を切った手を掴みそのまま引き寄せた。
「はーい、かおちゃん少し黙りましょうねー」
「え、なっ、ぎゃーっ! ヘンターイ!!」
雅人に抱き留められるような形ですぐに態勢を直せない華織は耳元の囁きに身体を強張らせ必死に抵抗していた。
簡単には逃げられないようにと腕に力を込めた雅人には、その緊張も嫌がっていることも勿論わかっている。
何も言葉で返すばかりが憂さ晴らしではないと反応を楽しみ、ほくそ笑む余裕を持ちながら頃合いを見て華織を解放した。
暑苦しいとはいえ年頃の若い男女が身体を密着させることで二人を取り巻く空気に変化があっても不思議はないと思うのが普通なのだろうが、やっとのことで雅人の腕から逃れた華織は恥じらいはおろか恋する乙女の反応から掛け離れた表情を浮かべ、肩で息をしていた。
「こ、こんな奴が幼なじみなんて……」
嫌悪に近い顔つきで深い溜め息を零しながら頭を垂れる。
物心つく前から一緒にいて兄妹も同然に育ったせいか、そういった意識は全くないようだ。
「こんな奴、なんて心外だな……。お兄ちゃん大好き、くらいいってくれないものかね」
「うわっ、きしょっ! どの面下げてお兄ちゃんなんていってるの!? どちらかと言えば手のかかりすぎる弟よね。自分の器考えなさいよ」
「そこまで言うか……。かおちゃん手厳しい」
「ふん、軟弱になった身体だけでなく根性も叩き直してあげるから覚悟なさい」
「ホント、手厳しい……」
「あーだこーだ言ってないでまずは働けー!」
「いてっ、ちょっ、かお……、いってぇ」
床に横たわるうちわを拾うと華織はそれを縦に雅人の腕や足目掛けて振り下ろした。雅人はこの勢いには勝てないと観念して立ち上がり作業の続きを指示され、文字通り働かされた。
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