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──夏独特の、肌を刺すような熱を宿した太陽の光が朝から町全体を照らす。そして、この暑さに拍車を掛けているような蝉の鳴き声。
その二つに苛立ちを隠しきれない私は、学校指定のセーラー服の胸元を掴んでパタパタと服の中に気休めにもならない生暖かい空気を入れながら、舌打ちを溢す。
「暑い……」
片手を陽射し避けの為に額に当てて、隅々まで晴れ渡る空を恨めしそうに睨み上げるも、睨んでどうにか出来る事でも無いので、再び視線を前に戻し学校への道乗りを急いだ。
──途中、黒猫と出会った昨日の場所に着く。車道と歩道の境目に立て掛けられたガードレール下には、小さな花束と、屈んでそれに手を合わせる一人の女性がいた。思わず、私は足を止めて様子を伺う。
黒色で短めながらもウェーブがかった髪に、薄いピンク色のTシャツを着た後ろ姿の女性は、黙祷した後も暫くその場に居た。
やがて、ゆっくりと立ち上がり白のロングスカートを僅かに揺らしながら、私とは別の方向へ立ち去る。
急いで花束が置かれた近くまで走り寄り、女性が去って行った方を見ると、既に女性は先にある曲がり角を曲がって行くところだった。
女性が完全に見えなくなった事を確認し、私は置かれていた花束へと視線を落とす。
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