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高校の部活動が終わり帰路に着こうとしている今、目の前を横切ろうとする黒猫を前にして……そんな噂を思い出した私──葉山由利(ハヤマ ユリ)は、端整で美しいと評判 (他人から聞いた話だ) の顔を自分でもわかるくらい、嫌そうに歪めた。
今日は丁度満月。別に噂なんかを信じている訳では無いが、こんな偶然があるとこんな表情にもなる。
この黒猫は、私に不幸になれとでも思っているのだろうか。
私が歪めた表情で黒猫を見つめていると、視線のせいかどうかは知らないが黒猫は歩みを止め、金色で黒い瞳孔の目を私に向けた。
一声も鳴くこと無く、見つめたまま動かない黒猫。それに対して、益々嫌悪が沸く。
──私は、猫が嫌いだ。
悠々と歩く姿、背中を丸めて座る姿、毛繕いをする姿、光と暗さで瞳孔の大きさがわかりやすい程変わる目、ある程度尖った歯を持つ口……つまり、存在そのものが大嫌いなのだ。
原因は過去にある──。猫を追いかけている内に、道路に出てしまい車にひかれたせいだ。幸い、軽傷で済んだが。
あの時、私が追いかけていた猫は無傷で、何事も無かったようにその場を去る姿に、無性に腹立たしい思いをした覚えがある。
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