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2回もノックしたのに応答がない。
「…。」
中からは相変わらずガサガサという音だけが聞こえている。
私は痺れを切らしてドアノブに手をかけた。
ガチャ。
「あの~。すみません…。先生?」
ドアを開けるとすぐソファーがあり、客用のテーブルがあったが、そのすべては紙と本で埋まっている。更に奥を覗くと紙の塊が動いていた。いや、よく見ると紙にまみれた人というのが正しいよなと自分で妙に納得した。
とりあえず私は自分の存在に気付いてもらうべく大きな声でもう一度、その紙の塊…もとい、人らしきものに話し掛けてみた。
「あのー!今日からこちらのゼミに参加させていただく予定の葉山ですけど…。五十嵐先生?」
やっと紙の塊は私の存在に気付いたらしい。
「葉山…。そんな名前だったかな…。まあいい。入りなさい。」
そう言って紙と本の山の中から出て来た教授らしき人は乱れた紙を後ろに撫で付け、私の顔をチラリと見ただけでデスクに腰かけた。
ぱっと見40代前半くらいだろう、くたびれた白衣、皺がよったスラックスを穿いてブルーのワイシャツと紺のネクタイはもう大分緩んでいる。
切れ長の目と鼻筋の通った顔は若い頃はきっとそれはそれなりだったのだろうと思わせる風貌だ。
とりあえず自己紹介をと思い、私は口を開いた。
「経済学科二回生、葉山美月です。今日から先生のゼミに入ることになりましたのでよろしくお願いします。」
「10分の遅刻だ。」
私の挨拶を完全に無視した彼、五十嵐教授はつまらなさそうに腕時計を見た。
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