出逢い

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「君は私の講義に遅刻した。まずそのことを詫びるべきだよ。大学生といっても成人した大人なのだろう?」 飄々とした物言いで教授は私の目をまっすぐに見据えて言った。私はちっとも私を待っていたようには見えない態度の相手が発した常識的な言葉に少し驚きと同時に腹立たしさを感じたけれど、自分の立場を考えて渋々謝ることにした。 「…。遅れまして申し訳ありませんでした…。」 「ふむ。不満げな顔だな。悪いと思わないのなら謝る必要はないんだよ。言いたいことがあるのなら言ってごらん。」 「いえ…。先生のおっしゃる通りですから。」 教授は少し考えてから、ため息をついた。 「ではもういいよ。帰りなさい。」 「…え?」 「帰りなさいと言ったんだ。自分の思っていることを閉じ込める生徒は私のゼミに必要としてないんだよ。」 何を言い出すんだろうこのオヤジは…。私は段々腹がたってきた。 「お言葉ですが先生のおっしゃる意味がわかりません。私にはゼミの単位が必要ですし、私は選抜の為にレポートを提出して先生に選ばれたから、ここにいます。それに他の生徒もまだ到着していないようですし、先生はとても私を待っていたようには見えませんでしたけど。」 私は教授を睨み付けながらこう言ったが、途端に教授は至極楽しそうな顔をした。 「ちゃんと言えるじゃないか。間違いだらけだけどな。」 「私のこと馬鹿にしてます?間違いって何よ?」 「うん。まず第一に君は私に選ばれたと言ったけれど、応募者は君一人だ。故に他の生徒はいないよ。それに私がどうやって君を待とうと君には関係ないはずだが?でもまあいい。君は今自分の思ったことを口にした。それこそが肝要だよ。私の前では思ったことはきちんと言いなさい。」 「…。」 やばい。変な奴のゼミに入ってしまったらしい。
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