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「あれ? あの娘はどこ行っちゃったんですか?」
超重量級の土佐犬の首輪に付けられた鎖のリードを車椅子にくくり付けた姉さんが現れたのはそれからしばらくしてからのことだった。
「ちょうど今帰った」
そう答えると、姉さんは惚けたような声を出した。
「あれー? あれだけ殴られればしばらくは動けないと思ったんですけどね?」
「俺もそう思うよ」
たぶん無理して格好つけたんだと思う。
斬原が去る時は俺から逃げるような感じだった。
無理矢理作ったような笑顔で「また明日」なんて短く言い残して去ってしまったもんだから、なんとなく追うのをためらってしまって「おう。また明日」なんて普通に応えてしまったから今となってはわからないのだけれども。
「クロちゃんが加減でもしてくれたんでしょうか」
「……そうかもね」
アイツが加減なんてできるような器用なやつかはわからないけれど。
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