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指に当たる感触だけを頼りに、スイッチを。それから少しばかり遅れて部屋の電灯が光る。
照らされた部屋。
中には俺と俺が寝かされていたベッドと、――ヘルメットを被った、たぶん女。
真っ黒なレザースーツとヘルメットのまるでスピードレーサーみたいな格好をしたそいつは、明るくなった部屋のど真ん中で膝を抱えて小さくうずくまっていた。たぶん今すぐに襲われるような心配はないだろう。
とりあえず、と。改めて部屋を見渡すも、一面がコンクリートらしい壁。窓が一つもない。電灯は一つ。小さな扉が一つ。部屋の隅にお菓子の空き箱、空のペットボトルが散乱している。……やっぱり見覚えのない部屋だ。
「おいコラ」
「は、はい!? 何でしょう……っ?」
さっきまでの殺す殺すとばかり言っていた喧しさは何処へか。それでも暴れられたりするよりはマシか。
「ここ、どこだ」
「こ、ここここは……っ」
吃り過ぎだ。
とりあえず、聞きたいことを率直に訊いてみたが、こんな有様。たしか、遥香さんの私刑によって意識を失って、それから、ええっと……――やべ、そこまでしか覚えてない。いったい俺が寝ている間に何がどうなってこんな寂しい部屋でこんな真っ黒なやつと二人っきりなんて嫌な状況になったんだか……。
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