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「ああ、もうっ! その拳銃下ろして下さい! ここはあの『斬原』の屋敷なんですよぅ!?」
「…………は?」
涙腺が決壊してしまっていそうなくぐもった涙声が言ったことに、俺は思わず耳を疑ってしまった。
懇願するような訴えの中に出てきた、ここ数日よく聞くようになった名前。
斬原――……。
……いや、待て。ちょっと待て。もしかして、
「……お前、もしかして、斬原って、……あの斬原……?」
「ふぇ!? えっ、ええっと、……はい。たぶん、その。ってゆうか、申し遅れましたが僕……、いえ、私……、私は、」
またわざとらしいくらいに吃りながら、そいつは今さらヘルメットを外した。
現れたのは、不揃いに切られた、赤いくせっ気だらけの長毛種の犬の毛みたいな髪。細い四肢と猫背気味の小柄な身体。そして、どこか怯えているような、可愛らしい、少女の笑顔。
「私――斬原 流香でございます」
それは、間違うことなく、
俺が知っているはずの、
斬原 流香だった。
………………。
…………。
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