第一章 渉 ~旅立ち~

5/7
前へ
/470ページ
次へ
 『天満正希です。突然の電話でごめん。  父さん…天満勤から、渉くんに手紙が届いてると思いますが、俺は渉くんの義理の兄です。  色々と伝えたいけど、とりあえず電話かメールをもらえますか?番号とアドレスは…』  運悪く留守電になってしまったその伝言を聞いた後、残されたアドレスにメールした。  返事はすぐに来た。  『連絡ありがとう。  渉くんを3人で待ってます。迎えに行けるかは分からないけど、きっと来てくれると信じてます。』  この短いメールを読んだ直後には、彼らの下に赴こうと考えられなかった。  あっさり過ぎる返事に戸惑ったのもあるが、やはり見知らぬ男女といきなり一つ屋根の下に暮らすのは、俺以外の人でも抵抗があるかと思う。  しかし、俺は現に彼らと共に生活すべく、そこへ向かう電車に乗っている。  それは何故か?  父の手紙には、実は続きがあった。メールを貰った後に気がついた。  最後の便箋、その裏側に書かれたそれを、再び見つめる。  『追伸。今住んでるマンションとは今度の3月いっぱいで契約が切れるからよろしく。次に住む人も決まってるみたいです。』  今読み直しても、乾いた笑いしか出ない。  いずれにしても、俺はこの家を出るしかないことが明らかになった。  そして、次に住む場所を探すにも少し時間が必要だ。
/470ページ

最初のコメントを投稿しよう!

249人が本棚に入れています
本棚に追加