第一章 渉 ~旅立ち~

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 『次は…』  乗り換えの駅を車内アナウンスが告げる頃、3ページに渡る大作が手帳を埋め尽くしていた。  それらを丁寧に切り取り、手帳の最後にペンと一緒に挟んで鞄の奥へ突っ込んだ。  彼らの家に着く前までに郵便局に行こう。  届かないかもしれないけど、たまには文句の一言でも出しておかないと…  『…さっさと帰ってこい。  色々言いたいけど、まずは帰ってこい。  今の俺の顔を想像してみなよ?  父さんはどんな顔をしてんだろね?だいたい、意味もなく笑ってるんだろうけどさ。  こんな状況で、兄姉たちはどんな顔をしてるんだろ?  父さんに似てないことを祈ってるけど。  あと、必ず生きて、必ず帰ってきてください。  そして父さんの頬を叩かせてください。  腫れ上がって顔が分からなくなるくらいにしてやるから。    以上、父さんの息子より。    追伸  黙って何かヤラかすのはいいから、体に気をつけて。』  電車のドアが勢いよく開く。  自然と笑みがこぼれた。  なぜ笑ったかは自分でも分からない。  あと、電車の窓に映ったその表情が父さんに似てると感じたのは、多分気のせいだと信じたい。  
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