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「焦らなくてもいいから、気をつけて帰ってこいよ?あまり寝てないんだろ?」
受話器の向こうにいる相手は、今仕事を終えて帰ってくると連絡をしてきた。
数日前に聞いていた予定より少し遅いが、時間についてはあまり気にしない。
だいたい彼女の予定は未定だから。その仕事柄、仕方のないことだ。
『でも、ゆっくりしてたら渉くんを迎えられないし…道も混んでるみたいだからね。
もし間に合わないようだったら、また連絡するから…』
彼女はそのまま電話を切った。
俺も役目を終えた携帯電話をポケットに入れる。
(またパトカーと追いかけっこしなければいいけど…)
電話の相手…紀砂は、車の運転がとても好きだが非常に荒い。
つい一週間ほど前にも、警察から厳重注意を受けたらしい。
スピード違反で注意だけで済んだのは、多分所属事務所の力添えがあったからだろう。
ともあれ、いつまでも心配しても仕方ないので、とりあえず電話の前まで続けていた夕飯の下ごしらえを再開することにした。
今日は、まだ見ぬ弟がこの家にやって来る。
どうやら、父さんの半ば強引な決断で、これからは一緒に住むようだ。
少なくとも、父さんの手紙の内容からはそう推測される。
今までの父さんの行動から考えると、実子である彼がとても不憫に思える。
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