わん

8/10
前へ
/56ページ
次へ
手を引かれながら無言のまま家路についている。あたしは俯き加減で頬に熱がこもる。 手は頼んでも離してくれないし、会話の話題は特にない。 それでも彼はなにも気にせずに顔をのぞき込んできて、「ここ右?」と家までの指示を仰ぐ。 あたしは言葉も発せずに頷いた。 「雨芽ちゃんって聖女だよね?」 「え、うん。なんで…?」 「え?制服着てるじゃん」 「あ、そっか。」 彼が「ハッハッハ」と声に出して笑うから顔を見合わせて笑った。 「あなたは?」 「あなたじゃなくて陸ね」 「へ?」 「名前」 「あ、陸くん…?」 「呼び捨てでいいよ」 「うん。じゃー陸って呼ぶ!あたしも雨芽でいいよ?」と顔をのぞき込んだ。 「…じゃ、雨芽。携帯の番号教えて?」 「うん」 あたしは携帯を探してポケットに手を入れる。 「…ん? …ない!?」 「え?」 となりで陸が心配そうにあたしの様子をうかがう。 「…もしかして携帯ないの?」 泣きそうになりながら小さく頷いた。 「最後に使ったのいつ?」 「えっと…公園で沙織に電話してから…」 「あ、俺のでかけてみる?」 「うん」 しばらく待ってみるけど一向に着信音はならないし、携帯を誰かが拾った様子もない。 「…公園かな?」 「公園?」 「うん、たぶん。 あたし一人で大丈夫だから陸は先に帰ってて?」 あたしはそれだけいって元来た道を引き返した。 「雨芽、待って!!」 陸が叫んだ気がした。 _
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加