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と。
夕闇の中を小さくて白い物体が急降下して来た。
瑞希達二人に向かって。
「……なんだ?あれ。」
最初に気付いたのは草馬だ。
瑞希は視力がいいからその急降下する白い物体がなんなのか判断して呟く。
「……鳥…?」
そう、鳥だ。
小型の鳶(とんび)のように翼を折り畳んで急降下して来る。
瑞希達との距離はどんどん狭くなり、そこで草馬が鳶の正体を見抜いた。
「…もしかしてあれって、忠宗様の式じゃ…。」
「…あぁ、間違いないだろう。」
纏う霊気が二人の上司である忠宗のものに間違いない。
ということは、あの鳥は式文だろう。噂をすればなんとやらだ。
式文との距離はもう一丈もない。
そこで瑞希が持っていた鞄を振り上げた。
「…え?安倍、お前まさか…。」
その時、鳥の姿をした式文が瑞希の懐に入った。
その瞬間瑞希は鞄をすごい速さで思い切り振り下ろした。
当然。
ばんっ!
「あぁっ!」
べちっ!
「あぁぁ…。」
最初の音は瑞希が鞄で式をぶっ叩いた音。
次の音はその式が地面に叩きつけられた音。
間にあった声は草馬の声だ。
式文は地面に叩きつけられてしばらくすると一枚の紙になる。
「………いやぁ、安倍さん。今のはいくらなんでも可哀想じゃ…。」
瑞希は式を大切にする。意思のない作られた式もだ。なのにこれはちょっとひどいんじゃないだろうか。
「…帰るぞ。式文は見なかったことにする。」
「それはさすがに無理があるって。そんなに依頼が嫌なの?」
「嫌だ。」
即答だ。
ここまで嫌がるのもすごい。
でもやっぱり可哀想なので、落ちている式文を拾い上げる。
今までこんなにひどい扱い受けなかっただろうなぁ、この式文。
そう思いながら草馬は文面に目を通す。
初めての式文よりかなり読み易くなった。
読みづらい文を見ても自分は忠宗の部下だから中々文句は言えなかったが、瑞希は読みづらい文面を実際に見た途端守り人支部の忠宗の元へ殴り込みに行ったのだ。
止めるのに苦労したし、止めるために触れたらぶん殴られたし。何より忠宗笑ってて瑞希押さえないし。散々だった。
苦い思い出を噛み締めながら、草馬は悲運な運命を辿った式文に踊る文字を声に出した。
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