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「『最近、人間の血が吸われるという事件が多発している。妖怪の仕業の可能性があるため、原因を調査、そして解決を依頼する』…。だって。」
草馬が読み始めると、嫌々言っていた瑞希を立ち止まりちゃっかり聞いている。
やっぱり気になるんだ、と瑞希の後ろ姿を見ながら思うが、口に出したらなんだか危なさそうなので黙っていた。
「……それ以外に書いてあることは。」
「ないよ。この様子だと忠宗様もあまり情報を持ってないみたい。」
「………。」
短く唸ると、瑞希は腕を組んで思案する。
草馬はその間に式文を折り畳んで懐にしまった。
術を施されたものの処分は慎重に行わなければならない。術の形跡で術をかけたものの情報が明らかになってしまうことがあるからだ。何もなければいいが、悪用されたら一大事だ。
「………仕方ない。」
苦々しい舌打ちの音がした後、瑞希は前髪を掻き上げる。
「……引き受けるのか?」
「…あぁ。死人が出てないにしてもすでに四件起こっているし、吸血鬼の正体も気になるからな。」
「わかった。俺も手伝おうか?」
「囮という仕事をやれ。」
「『やれ』って、もう手伝うこと前提だし。しかもなんだよその仕事内容。」
「それが不満なら死体役。もちろん本物で。」
「まだ囮がいいです。」
二つ目の仕事内容は確実に危険だ。
囮というのもあまり好ましくないが、死ぬよりましだ。
そもそも。
「なんだよ囮って。」
「『囮。他の鳥や獣を誘い寄せて捕らえるためにつないでおく鳥、獣のこと。または人を誘い寄せるために利用する人や品物のこと』。以上、私の持つ辞典に記載されているもの。」
「いいよわざわざ説明しないで!意味ぐらい知ってる!俺が聞きたいのは何の囮かってこと!!」
くわりと吠える草馬に対し瑞希は指で耳を塞いで煩いことを表す。
叫んだ所為で少し息があがった草馬は息を整えながら思う。
なんであそこまでぺらぺらと言えるのか。いくらなんでも暗記し過ぎだろう。
草馬の息が整った頃、瑞希は体ごと振り向いて口を開く。
「夏実の言葉を思い出してみろ。」
言われて、草馬は記憶を手繰る。
つい数時間前のことだが、話した量も多かったし、何よりその後の授業内容を覚えるのに必死で正直あまり覚えてない。
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