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「………えっと、不良さんにレバニラの差し入れ?」
「………………………。」
「………あぁぁっ!ごめんなさいすいません!行かないで!軽蔑の目で見てから行かないでえぇぇっ!!」
瑞希は冷めた目で草馬を一瞥すると、すたすたと先に進む。
そんな目で見られた草馬はいたたまれなくなって必死に瑞希を追いかけた。
―――――――……
――五分後。
「…はぁー!はぁー!…げほがほっ!」
「…情けないな、これくらいで。」
「煩い!安倍が歩くの速過ぎなんだよ!走ってもしばらく追い付かないってどんな歩き方してんのさ!!」
「いたって普通だ。」
「どこが!」
寒い季節なのに走った所為で汗が滲んだ草馬。汗で額に張り付いた前髪を、草馬は片手で払う。
「…ったくもー。すいませんでした。走っている間に思い出したよ。『年齢層が違うにしても被害者が全員男』ってこと?」
「初めからそう言えばよかったものの。」
「だからごめんって。」
やっと息が整い初めた草馬は、瑞希の機嫌をとろうと頑張る。
並んで歩く二人の影は、ずいぶん長い。空も暗くなってきている。
「んで?つまり男の俺が囮になれと?」
「わかってるな。」
「…………太一は?」
「自分の大事な式を囮に使う主がどこにいる。」
これは何を言っても自分は囮決定だと判断した草馬は、深く嘆息して片手を振った。もう言わなくていいという意思表示だ。
それを理解したらしく、瑞希は囮については言わなくなった。
一言を除いて。
「……危なそうだったら、全力で助ける。」
「………、……え?」
落胆していた草馬がその言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
「…なぁ安倍。今の…。」
「目の前で死なれちゃ、寝覚めが悪いからな。」
「………………あっそ。」
目を半眼にすると、草馬はふいと横を向いてしまった。
ほんの少し、期待してしまった。自分のために力を尽くしてくれると。
自分は、いつもみんなのために尽くしているのに。
いやでも、自分も、みんなと一緒にいたいから力を尽くしている。
結局は、自分のためだ。
誰かのためなんて、中々できない。
「……一回でいいから、誰かのために力を尽くしてみたいな。」
できたら、大切な人のために。
叶うなら、今一緒に隣を歩く人のために。
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