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――――――――……
「……絶対おかしい。」
「何がだ。」
「草馬、見事な囮になってると思うよ。」
「絶っっ対違う!断言できる!」
夜。
三つの影が道の真ん中で騒いでいた。
ひとつは、道に寝そべり。二つは、その寝そべっている影を見下ろしている。
その寝そべっているのは草馬だった。
両手足を術によって拘束され、じたばたともがいている。
それを二つの影、瑞希は腕を組んで見下ろし、太一は笑みを浮かべて見下ろしていた。
「囮ってあくまで気を引き付けるものでしょ!?これ完全に生き餌じゃん!」
「変わらんだろう。囮も生き餌も。」
「大きく違う!囮は本当にあくまで相手の気を引き付けるだけ!生き餌は食べられること前提じゃん!」
「そうか?」
「囮も下手すりゃ生き餌だよね。」
「味方がいない!」
吸血鬼事件の調査のため、夜町に繰り出した三人は、とにかく手当たり次第に歩き回っていたが、やがてしびれを切らした瑞希が囮作戦を決行し草馬を拘束したのだ。
「酷いよお前ら。だいたい、こんなあからさまな生き餌じゃ相手近付いてこないよ…。」
こんな時に限って、理屈的な瑰がいないのは痛手だと草馬はつくづく思った。
生憎瑰は今回現れる気配がない。
いたら、少しは助けてくれたかもしれないのに。
今にも泣きそうな草馬を見て、瑞希は決まりが悪そうに嘆息した。
「……仕方ない。」
そう言って、瑞希は印をきって術を解除した。
突然拘束がなくなった草馬はしばし瑞希をぽかんと見上げた。
面倒臭そうに瑞希は眉根を寄せた。
「お前の言ったことも一理あるが、元からお前には囮役は向いていないな。こんなに騒がしい囮など使えもしない。」
「……悪かったな。」
瑞希を一度じとっと見上げてから、のそりと立ち上がって草馬は衣服についた汚れを軽くはたいて落とした。
「だいたい、探すって言ったってちゃんとした情報もないのにさ。実際まだ見つからないし、今日は諦めたら?」
草馬の言葉にむっとした顔を見せた瑞希だが、夜空を見上げて同意した。
「……そうだな。今日はこの程度にして、もう少し情報を集めるか。」
こんな時は、情報屋と名乗る瑰を頼りにした方がいいだろう。
そう思った刹那。
太一の固い声が二人の耳朶を打った。
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