噂は噂で

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  刹那。   人ではない気配がぶわりと広がった。   驚きで目を見開く瑞希と草馬。 気配が、ひとつしかなかったのに分散するように分かれた。   「太一。」   気配と臭いがわかる太一に、瑞希は緊張が混じった声で説明を促した。   「う、うん。気配と同じで、本当に分散してる。みんな同じ臭いで、どれかが偽物ってことはない。」   「分裂する妖怪か?」   「わからない。だから下手に手を出すなよ。」   瑞希の忠告に草馬と太一は頷いた。 その間にも、気配はじわじわと逃げ場を絶つように近付いてくる。   その時、風が吹いた。   その風は、気配と一緒に、声も伴って。   ――――…見つけた。   『っ!』   三人揃って、背筋がぞくりと震えた。 得体の知れない何かが、悪寒を伴って背筋を駆け登った。   「な、んだこれっ。気色悪っ!」   草馬は思わず自分の体を両腕で抱くようにした。 瑞希もそうしたいのは山々だったが、毅然とした態度のまま晴蘭の柄を握る。   「取り乱すな北上。相手の思う壺だぞ。」   「わかってるけど…!」   気色悪いものは気色悪いのだ。 ねっとりと絡みつくような声。 何を見つけたのか、正直考えたくない。   「……太一、大丈夫か。」  少し太一の顔色が悪いことに気付いた瑞希が、気遣わしげに声をかけた。 太一はなんとか笑みを作るが、どうしてもぎこちないものになってしまった。   「……うん。ちょっと、血の臭いがきつくて。」   「……そうか。」   そういう理由なら、瑞希は何もできない。 人間の瑞希にさえほんの少し血特有の鉄の臭いがするのだ。 かなり離れた場所から臭いを感知していた太一からすれば、今の状況は決して気分のいいものではないはずだ。   その時ふと、瑞希は思い出した。 夏実の言葉を。   被害にあった不良達は、突然眠くなったと。 そして目を覚ましたのは病院で。   そこまで思い出して瑞希ははっとした。   もしかしたら、突然眠気が襲ってくるかもしれない。しかも、偶然かもしれないが被害者は全員男。 だから一度草馬を囮にしようとしたわけだが、本当に男しか狙わないなら。   「っ北上!気を付けろ!」  だが、その言葉は遅かった。   「…あっ…くっ…っ!」   瑞希が振り返った時、数度口を開閉させた後、草馬はその場にくずおれた。  
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