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「北上!?」
驚きで声が上ずる瑞希に、草馬は片手をなんとか上げて応えた。
「だい…じょぶ。」
「だが!」
「ほんと…に。」
それを表すように草馬は倒れた状態からゆっくり起き上がり、片膝をついた体勢になった。
だがその目は少しばかり虚ろだった。
そんな草馬に声をかけようとしたが、太一が倒れ込むように瑞希にしがみ付いてきたので、咄嗟にそれを支えた。
「太一!」
「ごめ…。なんか、体に力が…。」
入らないと、太一の唇が動いた。
なんとか冷静に判断をしようとして、まず瑞希は太一をその場に座らせた。
太一の目も、草馬と同じで少し虚ろ。
瑞希は二人の様子を見た。汗はかいてない。呼吸も普通。ただ、力が入らないという。
「……北上、話せるか。」
「……なん…とか…。」
その答えに瑞希は一度周りを見渡してから顔を伏せている草馬を見た。
「体調は。」
「…体に、力が入らない。…あと、目が霞む。」
「眠気は。」
「少し、だけ。…眠くは、ない。」
「突然だよな。前触れはなかったか?」
草馬はないという意味で首を振った。
「わかった。」
「油断、するな。近くに、いる。」
「わかっている。」
正直なぜ自分だけ草馬達と同じ状態にならないのか疑問だったが、敵の狙いが男限定なら。
「あくまで憶測だが敵の狙いは男だけの可能性が高い。そうであってもなくても、お前達がいないと戦況的にきつい。」
何せ、相手は姿さえわからない。血の臭いを纏った分裂する妖怪。
あくまで今までの情報を組み合わせた想像だが。
瑞希は晴蘭を一振りして地面に突き刺し、二回拍手(かしわで)を打った。
これで幾分か、この場に満ちる血によるよくない気が祓われたはずだ。
警戒するように瑞希は周りを見渡した。
未だに正体不明の気配が色濃くあるが、すぐに襲ってくる様子もなければ殺気もない。
取り敢えず瑞希は三人を囲む半球体の結界を作った。
そして、草馬と太一の側に膝をつく。
「お前っ、俺達治す前に警戒、しろ…!」
「瑞希…!」
「黙れ。さっきも言ったように戦うのであれば私一人は無理があると。だったら私だけで突っ込んできてやろうか?」
二人の心配をはねのけ、瑞希は手を翳して呪を紡いだ。
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