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ぎっと、瑞希は眼光を鋭くした。
「……たたっ斬る。」
瑞希に呼応するかのように、晴蘭の刃をほの白く光った。
男は興味深そうにその様子を見ると、やがてにっこりと笑う。
「やはりあなたの力は強いようだ。それにこの国の魔術も扱える。この国では魔術をなんと呼ぶのですか?」
尋ねる様がまるで好奇心旺盛な子供のようで瑞希は訝しげに思うが、表情を引き締めて再度言った。
「尋ねているのはこちらだ。答える気がないないなら容赦なくたたっ斬るぞ。」
瑞希の脅しにも男は笑う。
「名乗るほどのものじゃありませんよ。私は、この国に探し物を探しに来ました。」
「この国…?」
この男のさっきからの言動は、何か違う。
なんだか、この国は外から見たような言い方で。
まさかと思い、瑞希は男を睨んだ。
「……貴様、国外の妖怪か?」
何も、妖怪というものはこの国だけに存在しない。
形や名前は違えど、外国でも伝説として残っている。実際に悪魔祓いなどが存在していたという。過去形だが、今も存在しているかもしれない。
そもそも大昔に、まだ隣の大陸が唐と呼ばれていた頃にこの国に渡ってきた妖怪だっている。
自分の血の元である狐妖の仲間のいずれかも、唐から渡ってきたと聞いたことがある。
もしそうだったら、油断ならない。
国外の妖怪の知識なんて、接触しないと思ってほとんどない。
男はうーんと悩む素振りを見せながら口を開いた。
「……妖怪って、人間じゃないもの、化け物とかって意味ですよね。だったらそうですね、私は他国のよーかいです。」
にこっと、男は笑う。
だが瑞希は隙を見せないようにする。
さて、どうする。
今のところ殺気などの敵意は感じないが、この飄々とした態度は油断できない。
すると男は、ぱっと顔を輝かせた。
「あのですね。ずっと探してた探し物が見つかったんです。」
すぅっと、男は紅い瞳をうっそりと細めて口端を吊り上げた。
その時、男の唇から二本の鋭い犬歯が覗いた。
「――ですから、それをもらってもいいですか?」
紅い瞳が、後ろにいる草馬か太一のどちらかを見ている気がして、瑞希は瞳を鋭利に光らせた。
「……断る。」
瑞希の声が、数段低くなった。
「…………こいつらに手ぇ出してみろ。」
晴蘭の刃が、さらに光った。
「―――貴様、殺すぞ。」
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