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男はわざとらしく肩を竦めた。
瑞希の本物の、刺すような殺気をひしひしと感じているはずなのに、男は笑みを絶やさない。
「あははっ、怖いなぁ。たたっ斬るも殺すも言い方が違うだけで同じじゃないですか。」
「黙れ金髪野郎が。」
「あなた綺麗な顔してるのに、そんな怖いこと言っちゃ…。」
ふっと、男が消えた。
瑞希が気付いた時には、男は目の前にいた。
至近距離で、男は笑う。
「……台無しですよ?」
いらっとした瑞希は晴蘭を切り返した。
呆気なく避けられたが、距離はとれた。
男を睨み続ける瑞希は内心焦っていた。
瞬きの間、いや、瞬きより短い速さであの男にあそこまで近付かれた。
手出しされなかったからよかったものの、されていたら死んでいた。
冷や汗が一筋、背中を伝っていくのを瑞希は感じた。
瑞希は深呼吸して自分を落ち着かせた。
焦るな、そう自分に言い聞かせて。
「……貴様の目的が私の関係者にあるなら、容赦しない。」
力強く、晴蘭を握った。
「――――斬る!」
言うと同時に地面を蹴った瑞希は、男に斬りかかった。
「ははっ、威勢がいいですね。」
繰り出される瑞希の激しい斬撃をひらりひらりと躱す男は、この状況を楽しんでいるようだ。
苛立ちが募るばかりの瑞希だが、とにかく相手の隙を狙っていた。
するとふと、男は眉をひそめた。
「もう少し相手をしてあげたいんですが…。」
申し訳なさそうに、男は刃を避けながら言った。
「私には時間がないので、そろそろいただいていきます。」
その発言に、瑞希はつい冷静さを失ってかっとなった。
「だから、こいつらに手を出したら…!」
「いいえ。」
また男は瑞希の視界からふっと消えた。
瑞希がはっとした時には、男は目の前にいて、手首を掴まれ動きを封じられていた。
「このっ…!」
振り解こうと瑞希は藻掻いたが、男の手はがっちり掴み放されることはなかった。
藻掻く瑞希の耳元に男は近付いて、囁いた。
「――欲しいのは、あなたですよ。」
「な…!」
驚いて瑞希が男を見ると、男は優雅に微笑んだ。
その時紅い瞳が光り、それを見た瑞希の意識は瞬く間に遠退いた。
がくんと瑞希が頭を垂れると同時に、力の抜けた手から晴蘭が滑り落ちた。
「っ瑞希!!」
切羽詰まった草馬の声は、瑞希に届かなかった。
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