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ぐったりとする瑞希を腕に抱く男は、満足そうに微笑む。
「…やっと、見つけた。」
が、その表情がすぐに険しくなり顔を狙って飛んできたクナイを男は片手で払った。
からからとクナイは地面に転がる。
不機嫌そうに顔を歪めて、男はクナイが投げられた方を見た。
「……なんですか、せっかくの感動を邪魔して。」
男が見る先には、動かない体に無理矢理鞭打って立つ草馬の姿があった。
喘ぐように息をし、足は笑っている。
ただ、目だけは。
怒りに燃える目だけはしっかり男に据えられていた。
少しだけ男は驚いた。
「へぇ。私の魔術を受けても立てる人間なんていたんですね。」
「……ぇ……っ!」
喉にさえまともに力が入らず、声は風に流れてしまうほど小さい。
だが草馬は思い切り力を込めて叫んだ。
「――瑞希を返せっ!!」
草馬は残った一本のクナイを構えた。
叫びはびりびりと大気を震わせたが、男の飄々とした態度は変わらない。
「…瑞希?あぁ、この人の名前ですか。素敵な名前ですね。」
「黙れ!瑞希を返せって言ってんだ!それにお前の狙いは俺の方じゃないのかよ!」
すると男はにやりと笑う。
「誰がそんなことを?憶測だけで動いては危険ですよ?」
「だが立て続けに起こっている事件はお前の仕業だろ!その被害者は全員男だった!」
「確かにそうですけど。仕方ないじゃないですか。男しか無理だったんですから。」
意味深な男の発言にさらに草馬は熱り立った。
「だったら!」
「でも、それも今日まで。」
男は嬉しげに唇に弧を描いた。
そっと男は瑞希の首筋に顔を寄せた。
「……この人の血をいただけば、私はやっと解放される。」
男自身の事情があるようなことを言われたが、血をいただくという単語と瑞希に顔を寄せるという行動に。
ぶつり、という音がした。……ように聞こえた。
「……貴様…。」
ゆらりと、草馬から重々しい気が立ち昇った。
「……瑞希を返せって。」
切っ先を男に向け、草馬は金色に変わった瞳を鋭く光らせた。
「……言ってんだろうがぁっ!!」
地を蹴り駆け出した草馬は男に切りかかった。
瑞希を片腕に抱き直した男は紙一重で草馬の攻撃を避ける。
「…まったく。これだから人間は単純だ。怒り任せだと攻撃が大振りになって隙を作りますよ。」
「余計な世話だ!!」
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