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くわりと吠えた草馬は足を踏み込んでさらに斬りかかるが、避けられた。
それが草馬の冷静さを欠いていく。
男の腕の中にいる瑞希を見るたび、それに拍車がかかる。
「断てぬ鎖は我が意志の下に!」
男に掌を翳して草馬は呪を唱える。
草馬の霊力によって形成された半透明の鎖が男を襲うが、男はそれに手を翳した。
「《break(ブレイク)》。」
瞬間、鎖はぱんと弾けた。ぱらぱらと鎖の破片が舞う中で、男は笑う。
その光景を呆然と見ていた草馬ははっとして表情を引き締めた。
鎖が破壊される直前、男から力が発された。英語であろう言葉と共に。
自分達人間の霊力のような、妖怪のような妖力。
確かに妖怪の一種だろう。瑞希が言った。お前は国外の妖怪かと。
男は肯定した。
ならば先程から感じていた違和感は、国外の妖怪特有の力だろうか。
様々に施行を廻らせていると、草馬は手足に痺れを感じた。
手を見ると、微かに震えている。
男に力か何かで動けなかったのに、無理矢理動いた反動がきたのだろう。
クナイを握り直して、草馬はその手を口元に持ってきた。
そして、その手の甲を思い切り噛んだ。
口の中に鉄の味が広がる。
それと同時に、痛みも。
痛みで感覚を取り戻した草馬は一緒に冷静さも取り戻した。
だが相変わらずの金色の瞳は男を映す。
「……瑞希を返せ。」
「なぜ?」
おどけるように首を傾けて言う男に憤りが込み上げるが、それを抑え草馬は言った。
「仲間だからだ。大切な、仲間だから。」
偽りはない。
男が本当に危険なものかと言えば、言い切れない。
男は殺気も敵意もないのだ。
それでも、大切な仲間に意志は置いて危害を加えるのであれば敵だと、草馬は判断した。
「……仲間、ですか。でも、だからと言ってこちらもそう簡単に返すわけにはいかないんです。」
噛み締めるように男はその単語を繰り返すと、眉尻を下げ微笑んだ。
「私には急ぎの用があって、どうしてもこの方が必要なんです。」
途端、瑞希を抱えたまま男の体がふわりと浮いた。
「なっ…!」
一歩踏み出そうとした草馬だが、意志に反して足が動かない。
それどころか、またがくりと膝をついてしまった。
重い。
鉛の塊を背負っているかのように、重くて体が動かない。
なんとか動く頭を上げて、草馬は男を睨んだ。
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