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――――――――……
「きゅうけつきぃ?」
かなり怪訝そうな声が静かにすることが常識の図書室に広がった。
「……たっ。」
幸い人はあまりいなかったものの、いる人間から少し冷たい視線を受ける中、声をあげた人間の後頭部に本の表紙が軽く当てられた。
本はすぐに退かされたが、怪訝そうな声をあげ冷たく見られ本で叩かれた人間、北上草馬は口をへの字に曲げて小さくすいませんと言った。
草馬を叩いたのは、席をひとつ空けて座り、無言で本を読んでいる安倍瑞希。
ちなみに叩いた本と読んでいる本は別だ。
今は昼休み。
草馬は女子共から逃れるために図書室に身を潜めた。そこにたまたま瑞希が本を読んでおり、その瑞希に向かい合うように加藤夏実が座っていた。夏実の方は本を読んでもないし持ってすらない。ただ瑞希に一生懸命話していたのだ。
いつも遠藤飛鳥を加えての三人組だが、確か委員会の仕事があるとかなんとかでいないらしかった。 なんだか気になって、草馬は声を掛け話してくれとせがんだ。その時、夏実の目がやたらきらっきら輝いていたことに気付けば、こんな目には会わなかった。が、今更後悔しても遅い。前向きに考えよう。
「そっ。吸血鬼。この町の学校じゃそれなりに有名な話。」
「安倍、知ってたか?」
「夏実に今聞かされた。後悔している。」
元々瑞希と草馬は自分に関係ない情報に疎い。
逆に夏実はどこからか知らないが噂を集めてくる。
この町の世間についての知識は、情報屋の妖怪鎌鼬瑰といい勝負かもしれない。
「…ま、吸血鬼はわかったよ。吸血鬼って人間の血を吸う伝説の化け物だろ?」
「そうそう!その吸血鬼がこの町にいるかもって噂なんだ。」
「いるかもって噂…、ねぇ。
そもそもなんでいるかもなんだよ。血がみんな抜き取られた人間か動物の死体でも見つかった?」
「う~ん。ちょっと違う。見つかったのは死体じゃなく気絶して空き地に倒れてた人間。隣町のちょっと腕のある不良さん。」
夏実は情報を頭から引き出しているのかぽつぽつと話していく。
「その不良さん達は昨日朝見つかって病院送り。検査したら貧血だったんだって。」
「なんだ。吸血鬼と関係ないじゃん。」
「ちっ、ちっ、ちっ。甘いね北上草馬君。噂ってのは奥が深いものなんだよ。」
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