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「噂に深いも浅いもないだろう。」
相変わらず目を本に向けて、瑞希はぼそりと呟いた。それでも夏実はいいのっ、と反論して話を元に戻す。
「貧血って言っても、ただの貧血じゃないらしいんだなぁこれが。」
「貧血は貧血だろ。その不良達はきっと鉄分摂取してないんだよ。今の時代多いよね。加藤、そんなに不良さん達が心配なら差し入れに小松菜を持って見舞いしろ。鉄分たっぷりだよ、小松菜。」
「なんで見ず知らずの不良に小松菜持って会いに行かなきゃなんないのよ。冗談じゃない。だいたい鉄分は小松菜よりレバーの方が多く含まてるんだよ。」
「じゃあレバニラを差し入れに。」
「おいお前ら、話ずれてる。」
なぜか話が鉄分の話にずれ、そこを瑞希が修正を導く。別に修正しなくともいいのだが、このまま続けたら十分後に何の話題になっているかわかったもんじゃない。
とんでもない話題になってたら関係者と思われたくない。
夏実と草馬もはっと気付き、少しばかり反省した。
ずれていることに自覚がない。この手は一番面接臭い。
気を取り直すために夏実が咳(せき)をひとつ。
「こ、こほん。まぁとにかく、貧血は貧血なんだけど北上君が言うような貧血じゃなくて、外部から血を抜かれた貧血だって。」
そこで瑞希がやっと反応した。したと言っても本の紙片を捲る手が止まったのだ。
草馬もそれに気付き、一瞬だけ瑞希を見た。
おそらく二人の思っていることは同じだ。
妖怪の仕業ではないか、と。
だが、表でそう思ってはならない。一般人の夏実がいるからだ。動揺を見せると探られる可能性がある。深く知られたら最悪の場合記憶を消すことになる。
そこで草馬はわざととぼけたように振る舞う。あくまでも自然体で。
「外部から抜かれたぁ?なんだそれ。抜かれたんじゃなくて流れたんじゃないの?手首切ったとか。」
「違う違う。そんなんじゃないの。第一手首に傷はないし、他のところもほぼ無傷だって。」
「ふ~ん。…ん?『ほぼ』?」
引っ掛かりを感じて草馬は聞き返す。瑞希はまた読書を再開したが、しっかり二人の会話を聞いている。
「そう、そこが肝心なこと。唯一あった傷は、首筋にあった二つの穴のような、まだ新しい傷だっんだって。しかも倒れてた不良全員にその傷があったって。」
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