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「へ~。それで吸血鬼、ね。その首筋から血が抜かれたと?」
「お医者さんの見立てではそうらしいよ。」
「だが結局はそんな曖昧な証拠であって、ただ吸血鬼という呼び名がついただけだろう。」
本が読み終わったらしく、ぱたんと閉じながら瑞希が口を開く。
だが、夏実は屈しなかった。むしろ不敵な微笑みを浮かべている。
「ふふふふふ~。」
「やめろその笑い気持ち悪い。」
顔をしかめる瑞希に、不気味な微笑みを浮かべる夏実がびっと指を突き付けた。
「あっまーいよ瑞希!」
「加藤、場所をわきまえろ。」
草馬にたしなめられて夏実は声の音量を少し下げた。
「実は、目撃した不良さんがいるんだなぁ。」
「へぇ~。」
表面上は興味ないように、だが内面は興味津々の様子で草馬が返す。
「病院送りになった不良さん一人が目を覚まして。その人が言うには、空き地でたむろってたら急に体が動かなくなって、そのうちだんだん眠くなってきたんだって。」
「…で、そのまま寝てしまったと?」
「寝ちゃったは寝ちゃったらしいんだけど。寝ちゃう直前に人を見たって。」
「………人?」
「うん、外国人。」
「…はぁ?」
怪訝な声をあげる草馬。
さっきのことがあったので控え目で。
やっと瑞希が口を開く。頭を手で支えて頬杖をついていかにもやる気なさそうだが、目を鋭く輝かせていた。
「…なぜ外国人と言えるんだ?」
「おっと興味湧いちゃった瑞希ちゃん。」
「茶化すな。」
瑞希に少し強めに言われて、夏実ははいはいと宥めるように手を振った。
「見えたのは、金髪と紅い瞳だって。もちろん幻じゃないってよ、断言してたらしいから。」
「……いくら外国人でも、金髪はあるにしろ紅い瞳はないだろう。」
「そこなんだよ!だから吸血鬼っぽいでしょ?」
机に両手を付いて前に乗り出す夏実に少々たじろぎながら瑞希はそうかもなと曖昧に言った。
「…でもさ、その目を覚ました不良は血を吸われたって言ったのか?」
草馬のもっともな質問に夏実はぐっと詰まった。
この様子じゃ…。
「不良は肝心な証言をしなかったみたいだな。」
「…それは…、そうだけど…さ…。」
夏実がどんどん小さくなる。あれだけ勢いがあったのに、まるで青菜に塩だ。
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