忘れていた記憶

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「あの時のあの”足音”、ヒロのおじいちゃんのだったんじゃないかしら」助手席に座っている妻が言った。 「あっ」僕は妻の指摘に思わず声を漏らした。渋滞で連なる車の列。花火大会の帰り道で、前の車が放つテールランプの灯りをぼんやり見つめながら僕は妻の言葉を反芻した。  そうだ。確かにその通りだ。なぜ気付かなかったんだ、と今更ながら僕は悔やむ。もっとも、それはこれまでに幾度も後悔してきたことのひとつでもあるのだが。 「そうかもしれないな」僕は無愛想に答えはしたが、頭の中がそのことで満たされ動揺する。ろくに前に進まない車のハンドル操作に意識を傾ける気になれないせいもあるのだろうが、自然と込み上げてくるものを僕は抑えきることができなかった。  目の前のテールランプが赤く滲んで見えた。
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