cat girl

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 やかましく鳴いては、あなたに爪を立ててばかり。最後まで可愛い猫じゃなかったね、私。  独りぼっちに飽き始めててた私は、あなたの差し伸べてくれた手の体温に、飼われてしまっても思った。あの時は、ずっとずっと、あなたの傍にいても良いかなって、考えてた。  あなたの私を呼ぶ声は、誰にも呼ばれることがなく街をさまよっていた私には、くすぐったいものだった。私を撫でる大きな手は、穏やかな心地よさを、私に与えてくれた。  あなたのシャツの胸元に顔を押しつけて、幸せな鳴き声を上げている瞬間には、確かな幸福を感じていたわ。  でも、あなたがくれた束縛の首輪は、野良だった私には窮屈なの。いつしか、この部屋さえ息苦しくなってた。  だから、今日でさよならしようと決心したの。  去ろうと決めたこの部屋が、今日に限ってどうしようもなく美しく見えるのは、別離の切なさのせいなのかしら。あなたと暮らしていた痕跡が、去ろうとする足を重たくする。  まさに今、甘い色をした夕日に照らされて、空気に舞う埃さえ輝いてるみたい。嫌だった思い出さえ、今日は脳裏に綺麗に蘇ってくる。  あの人が帰ってくる前に、出て行かなくちゃ。胸の苦しさを抱き締めて、私はゲージに背を向ける。  自由な野良に返るのがこんなに辛いなんて、変なの。また広い世界で、気ままに風に流されて生きるだけじゃない。  それに…  もしここが私の死に場ならば、いつかは戻ってくるんだろう。生き物なんて、そんなもの。  ごめんね、上手な甘え方さえ知らない猫で。それでもあなたを愛していたわ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加