2人が本棚に入れています
本棚に追加
雌猫のくせに、濡れ鼠。雨の中でただ雨粒をこぼし続ける空を見ていた。行くところも行きたいところもない。風邪を引くのも、別に構わない。
雨に急ぐ人間達の雑踏の中で、私はただこの時間を生きているだけ。たまに、人間の視線が私に向くけれど、誰一人として足は止めない。
情けを掛けてほしくて雨の中を佇んでいるんじゃないから、構わなかった。
「うっわー、びしょびしょじゃん」
憂鬱そうな灰色をした空が遮られて、代わりに青い天井が現れた。青い天井からは、雨が降ってこない。
「どしたの?」
不思議そうな声を発する男の顔。青い偽物の空に、太陽まで出てきたとぼんやり思った。
放っておいて。可愛いねって拾っていって、飽きたら捨てる奴らなんて、こっちから願い下げだ。
怒鳴りたかったけど、開いた口から漏れたのは、頼りない鳴き声だった。
*
最初のコメントを投稿しよう!