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目が覚めた。ひどく気だるい。
まだ朦朧とした意識の中で携帯電話を開く。
3月27日。朝の7時半。
僕は小さく息を吐いた。耳には心地良いリズムで小気味良い音が響いてくる。
その音が、詩織がキッチンで玉ネギを刻んでいる音なのだと、僕は知っている。
もう一度、今度は大きく息を吐いてから、僕は体を起こした。滞っていた血液が新たな活路を求めるようにゆっくりと動き出す。
「おはよう」
僕が起きた事に気付いた詩織が言った。この部屋がワンルームとはいえ、よくキッチンで料理をしながら、僕の起床に気付けるものだ。
しかし毎朝の事なので、今更驚きもしない。
「おはよう」
自分でも驚くほどの、突き放したような声が出た。
「もう少しで朝ご飯出来るから、待っててね」
それを気にする様子もなく、詩織が明るい声を響かせる。僕はベッドから降りた。
すぐ脇にあるクローゼットを開けた。一番気に入っていた、落ち着いた色のジーンズと、水色のストライプが鮮やかなシャツを選んだ。
着替え終わると、テーブルの上に朝食が並んでいた。
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