僕は知っている。

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白いご飯に、玉ネギとワカメのみそ汁。ほうれん草のおひたしに、オープンで焼いたサケの切り身。 詩織が朝食に和食を作る事など、以前はほとんどなかった。 「今日は凝ったものを作ってみたくて」 嬉しそうに笑顔を弾けさせる詩織に対して、 「美味しそう」 と、ぶっきらぼうに答えるのが精一杯だった。 本来なら驚くべき場面なのだろう。その方が自然だと、僕もわかっている。 しかし僕は驚かない。今日の朝食がそのメニューだという事を、僕は知っている。 「どうかしたの? 疲れてるみたい」 キッチンから箸を用意してきた詩織が、その箸を僕の前に置きながら、心配そうに顔を覗き込んできた。 「なんでもないよ」 僕は答える。「疲れている事は確かだけど」 「今日行けば、明日は休みなんでしょう? 頑張って」 「ああ」 明日は休み。それは事実だが、現実感はない。詩織が不安そうな表情を浮かべながら、更に質問を紡ぐ。 「今夜の約束は大丈夫?」 「1ヶ月前から予約していたんだ。すっぽかしたらもったいないよ」 「良かった」 心底安心したように、詩織が息をつく。今日は付き合い始めて5年目を迎える記念日だった。2人でそれを祝うため、1ヶ月前からレストランを予約していたのだ。
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