僕は知っている。

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5年という節目の年。その記念日を迎えるに当たって、僕は1つの決心をしていた。詩織に結婚を申し込む。そう決めていた。 「ワインとかも予約してあるんでしょう? 楽しみ」 右手に箸、左手にご飯茶碗を握ったまま、まるで少女のように瞳を輝かせながら、詩織が微笑む。 「僕らの誕生年のワインだ」 「美味しいかな?」 「絶対美味しい」 精一杯頬を吊り上げながら、僕は答えた。詩織は嬉しそうに頷いた。 他愛もない会話を交わしながら、朝食を食べ終えた。詩織が食器をまとめて立ち上がる。 詩織がキッチンに立つ。すぐに洗い物をする音が響いてきた。 それをよそにして、僕はアルミ棚の一番上にある救急箱を取り出した。ほこりを小さく払ったあと、救急箱を開けて、絆創膏を取り出した。 キッチンから派手に皿が割れる音が聞こえてきたのは、その時だった。その暴力的な響きに、僕は少しも驚かない。 「痛い」 小さく呻くような声が聞こえた。絆創膏を持って立ち上がる。 シンクの前で右手の人差し指をを抑える詩織に、僕は歩み寄った。詩織が、きまりが悪そうに僕を見つめた。 「ごめんなさい、驚かせちゃったかな」 「大丈夫」 僕は精一杯微笑んだ。「それより怪我の手当てを」
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